ロシア地上軍における縦深作戦能力の回復

分析資料

2016年頃から、ロシア軍では大口径の砲兵火力の拡充に関する報道が目立つようになり1、特に多連装ロケットによるネットワーク・セントリック・ウォーフェア(NCW)への対応状況は広く注目されている2

2019年には世界最大の240mm迫撃砲2S4「チュリパン」に関する報道も見られるようになり3、2009年の軍改革で一度は失われたかに見えたソ連時代の大口径火砲が次々と復活を果たしつつある状況が読み取れる。

諸兵軍および師団直轄砲兵の拡充

2019年11月19日付の軍需産業クーリエ紙によれば、こうした復活した大口径火砲は諸兵軍(CAA: Combined Arms Army)直轄の砲兵旅団や、近年徐々に復活しつつある自動車化歩兵師団(MRD: Motor Rifle Division)または戦車師団(TKD: Tank Division)隷下の砲兵連隊の拡充に用いられている4

同紙の指摘によれば、2009年の「新外観(New Look/Novyj oblik)」軍改革における全地上軍部隊の旅団化に伴い、ロシア地上軍の火砲は152mm榴弾砲、122mm多連装ロケット、300mm多連装ロケットの3種のみを残し、他の火砲は装備保管基地で保管されることになった5

ところが2015年、203mm榴弾砲2S7「ピオン」や2S7M「マルカ」、および240mm迫撃砲2S4「チュリパン」を復活させる計画が明らかになり、2017年にはこれらの火砲の近代化改修が開始された6

また2015年には、220mm多連装ロケット「ウラガン」も復活させる計画が明らかになり、同火砲もまた近代化改修を行うこととされ、さらには新型の同口径多連装ロケット「ウラガンM1」の開発が開始された。「ウラガンM1」はすでに開発実験が完了し、部隊配備が進んでいる7

これら火砲の近代化改修および新型火砲の開発の狙いは、主に精密誘導弾の使用を可能にすること、並びにUAV「オルラン10」やGLONASS衛星、自動C2(Command and Control)システム「ストレレツ」、ESU-T3「ソズヴェズジエ」との連携を可能にすることにあるとされ8、総じてC4ISR(Command, Control, Communications, Computers, Intelligence, Surveillance, and Reconnaissance)能力を向上させてNCWへ対応することが焦点となっている。

単なる米軍の模倣なのか

こうしたロシア軍における最近のC4ISR能力の向上は、RANDの研究者たちが指摘するように、米軍の模倣とされることが多い9。しかしながら、ロシアの研究者からは、1990年代の米軍における情報RMA(RMA: Revolution in Military Affairs)そのものが1980年代のソ連軍におけるオガルコフ構想の模倣であったとの反論が見られる10

また、米陸軍外国軍事研究局(FMSO: Foreign Military Studies Office)のティモシー・トマス(Timothy Thomas)のように、ロシア軍に内在する独特なロジックを理解すること重視し、現在のロシア軍に見られる現象を単なる米軍の模倣とみなすことは将来予測を見誤る危険を伴うと指摘する声もある11。トマスは、1920年代の作戦術(Operational Art)概念や1980年代の作戦機動部隊(OMG: Operational Manuver Group)構想のような、敵の指揮統制組織を麻痺させることを追求する伝統的思想は、現代ではサイバー戦のような手段を重視する姿勢に現れていると論じている12

そこで、本稿ではロシア軍内のロジックを重視する立場から、今次ロシア軍の重火砲復活の意義について考察する。

縦深作戦能力の復活

そもそも2009年の「新外観」軍改革は冷戦後の戦略環境への適応を目的とし、第二次世界大戦のような大規模な地上戦の可能性を排除して、チェチェン戦争やグルジア戦争のような現実的な局地戦へ対応することを主眼として行われた13

このため、地上軍の全部隊が旅団化され、2014年のウクライナ東部での戦闘で明らかになったように、ロシア地上軍による作戦は旅団から抽出された大隊戦術グループ(BTG)を主体に行われるようになった14

しかしながらBTGは本来、師団隷下の連隊が前衛部隊として編成し、彼我の接触線の定まらない浮動状況下で運用される部隊である。作戦に参加するすべての部隊がBTGとなった場合、大隊ごとに122mm多連装ロケット「グラド」を撃ち込んでは離脱を繰り返すような戦闘様相にならざるをえず、このような分権的な組織では火力の集中運用が困難となる。

すなわち、2009年の軍改革によってロシア軍は指揮統制組織をフラット化させ敵を上回る意思決定速度を獲得することで局地戦に対応したのと引き換えに、火力の集中運用による縦深地域への進出能力(縦深作戦の遂行能力)を喪失することになった15。この点はソ連崩壊以降、ロシア軍人が政治指導部の要求する軍改革に対して頑強に抵抗してきた最大の理由でもあった。

こうした文脈から今次ロシア軍の重火砲復活を考察した場合、ロシア軍内には2009年の軍改革によって完全に喪失した縦深作戦の遂行能力をある程度復活させようとする意向が依然として存在しており、近年の師団編成の復活とあわせて、ロシア軍は局地戦以上の規模での正規戦を想定している状況が伺える。換言すれば、220mm多連装ロケット「ウラガン」に代表されるソ連時代の重火砲復活の狙いは、諸兵軍以下の作戦レベルにおける縦深作戦能力の回復にあると考えられる。

ロシア軍内のロジック

こうした、2009年の軍改革への反動とも受け取れる、いわば保守派軍人の巻き返しとでもいうべき動きが可能となった理由は3つ考えられる。

1つはおそらく、ロシア軍をとりまく政治的環境の変化によるもので、改革を強引に進めて保守派軍人からの反発を買ったセルジュコフ国防相が2012年に退陣し、現在のショイグ国防相になって保守派軍人の意見が通りやすくなったためである16

2つめは、2009年の時点で当時のマカロフ参謀総長が指摘したような「NCWを実現するための技術基盤の不足」が解消され17、現状では指揮統制組織を無理にフラット化せずとも技術的に意思決定に要する時間を短縮できるようになったためである。これは、1930年代の縦深理論の正当性を裏付けた「大祖国戦争の教訓」を信条とする保守派軍人にとって、マカロフのような改革派軍人のロジックに反論するための格好の材料になったと考えられる。

3つめは、「非対称戦略」の制式化によって、砲兵の強化に対する理論的裏付けが得られたためである18。すなわち、冷戦後の西側諸国が一般に砲兵火力を縮小させる傾向にある点を受けて、ロシア軍が逆に砲兵を強化するという「非対称な」手段に勝ち目を見出すことは19、戦略的に妥当であるとするロジックが成立したと考えられる。

まとめ

2018年の戦略演習「ヴォストーク2018」は中部軍管区の師団編成部隊と、東部軍管区の旅団編成部隊による対抗形式で行われ、師団編成部隊の利点が検証された20。また2019年の戦略演習「ツェントル2019」では、重火砲の有用性が検証された21

ロシア軍はこうした戦略演習の機会をとらえ、現代においても縦深作戦は依然として有用であるとする保守派軍人たちの理論的妥当性を着々と整備しつつあると考えられる。

  1. 例えば、”Armiya RF poluchit novejshie RSZO «Tornado-S» v 2017 godu,” TV zvezda, September 26, 2016, tvzvezda.ru/news/opk/content/201609261640-34e1.htm.
  2. ボストーク研究所「ロシアの多連装ロケットについて」2019年6月27日、vostokresearch.jp/?p=501。
  3. 例えば、Aleksandr Peshkov, “Obzhigayushchij «Tyul’pan»: zamedlennaya c”emka strel’by iz samogo moshchnogo minometa v mire,” TV zvezda, August 26, 2019, tvzvezda.ru/news/forces/content/20198261048-cFVcp.html.
  4. Pavel Ivanov, “«Uragany» vysokoj tochnosti,” Voenno-promyshlennyj kur’er, November 19, 2019, vpk-news.ru/articles/53731.
  5. Ibid.
  6. Ibid.
  7. Ibid.
  8. Ibid.
  9. Andrew Radin, Lynn E. Davis, Edward Geist, Eugeniu Han, Dara Massicot, Matthew Povlock, Clint Reach, Scott Boston, Samuel Charap, William Mackenzie, Katya Migacheva, Trevor Johnston, Austin Long, “What Will Russian Military Capabilities Look Like in the Future?” RAND Army Resarch Division, 2019, www.rand.org/pubs/research_briefs/RB10038.html.
  10. Dmitrij Adamskij, “Vliyanie idej marsyala Ogarkova na sovremennuyu zapadnuyu voennuyu mysl’,” CAST, October 30, 2019, www.youtube.com/watch?v=EJ3orZ2-UUU.
  11. Timothy Thomas, “Russian Military Thought: Concepts and Elements,” The MITRE Corporation, August, 2019, pp. 9-10, www.mitre.org/publications/technical-papers/russian-military-thought-concepts-and-elements.
  12. Ibid., pp. 13-16.
  13. 小泉直美『ポスト冷戦期におけるロシアの安全保障外交』志學舎、2017年、39-56頁。
  14. U.S. Defense Intelligence Agency, “Russia Military Power: Buiding A Military to Support Great Power Aspirations,” 2017, pp. 54-55, www.dia.mil/Military-Power-Publications/.
  15. ボストーク研究所「ロシア東部軍管区で「新たな師団」が復活」2019年6月20日、vostokresearch.jp/?p=388。
  16. 2013年にモスクワ近郊で2個師団を復活させたのも、ショイグ国防相が保守派軍人の支持を回復させるためであったとされる。Igor Sutyagin, Russia’s New Ground Forces: Capabilities, Limitations and Implications for International Security (Whitehall Papers), Taylor and Francis (Kindle ver.), 2017, pp. 25-32.
  17. Viktor Khudoleev, “V nogu co vremenem,” Krasnaya zvezda, March 29, 2011, http://old.redstar.ru/2011/03/29_03/1_01.html.
  18. “Vektory razvitiya voennoj strategii,” Krasnaya zvezda, March 4, 2019, redstar.ru/vektory-razvitiya-voennoj-strategii/, accessed on June 4, 2019; Andrej V. Kartapolov, “Lessons of Military Conflicts, Prospects of Development of Means and Methods of Administering them, Direct and Indirect Action in Contemporary International Conflicts,” Vestnik akademii voennykh nauk, Vol. 52, No. 2, July 2015, pp. 26-36.
  19. ボストーク研究所「ロシアの多連装ロケットについて」2019年6月27日。
  20. ボストーク研究所「ロシア東部軍管区で「新たな師団」が復活」。
  21. Roger McDermott, “Russian Military Pursues ‘Artillery Reform’,” The Jamestown Foundation, October 16, 2019, jamestown.org/program/russian-military-pursues-artillery-reform/.