東部軍管区司令官が装備更新状況に言及

分析資料

2019年7月31日、軍機関誌「赤星」に掲載された東部軍管区司令官ゲンナジー・ジトコ中将に対するインタビュー記事において、同司令官が東部軍管区の装備更新状況に言及した1

同司令官によれば、今年上半期で導入された新装備数は400以上であり、この中には新型多連装ロケット「トルナドG」、T-80BV戦車、携帯対空ミサイル「ベルバ」が含まれるとされる。

また今後、地対空ミサイルS-300V4、地対艦ミサイル「バスチオン」、地対空ミサイル「ブク」、装甲人員輸送車BTR-82AMが導入される予定と発言した。

新装備の概要

ジトコ司令官が言及した装備の概要は次のとおりである。

多連装ロケット「トルナドG」

  • 配備開始 2014年
  • 口径 122mm
  • 装弾数 40発
  • 射程 40km
  • 制圧範囲 不明(「グラド」と同程度ならば東京ドーム3個分)
  • GLONASS誘導2

戦車T-80BV

  • 配備開始 1985年
  • 最高速度 舗装路70km/h 未舗装路50km/h
  • 走行距離 570km(外部タンク使用時)
  • 主砲 125mm滑空砲(38発)
  • 対戦車ミサイル「コブラ」および「レフレクス」を主砲から発射可能
  • 7.62mm機関銃(1250発)、12.7mm機関銃(300発)搭載
  • 弾道コンピューター搭載射撃制御システム
  • レーザー測距付き光学照準器、暗視装置
  • ガスタービンエンジン3

ソ連時代の古い戦車であるが、ガスタービン型のT-80シリーズは2016年頃から寒冷地での有用性が改めて見直され、北極圏やカムチャツカの海軍歩兵を中心に配備が進んでおり、T-80BVMと呼称される場合も散見される4。今回のT-80BVとT-80BVMと称する戦車が同一のものなのかは不明である。

携帯対空ミサイル「ベルバ」

  • 配備開始 2014年
  • 射程 500m~6,000m
  • 高度 10m~3,500m
  • 3種類のシーカーを持ち、レーザーを含む対抗手段による妨害の可能性を低減
  • UAVや巡航ミサイルにも対応
  • 夜間射撃可能5

地対空ミサイルS-300V4

  • 配備開始 2014年
  • 射程 400km
  • 高度 25m~30km
  • 1個大隊による同時撃墜可能目標数 24
  • 1個大隊による同時追跡可能目標数 48

S-400とほぼ同じ能力だが、S-400は戦略施設等の防護、S-300V4は地上部隊の防護を担当すると説明されている6

地対空ミサイル「ブクM3」

  • 配備開始 2016年
  • 射程 2.5~70km
  • 高度 0.015~35km
  • 1個大隊による同時追跡可能目標数 367

地対艦ミサイル「バスチオン」

  • 配備開始 2015年
  • 射程 300km
  • 速度 マッハ2.5
  • ラムジェットエンジン搭載8

装甲人員輸送車BTR-82AM

  • 配備開始 2013年
  • 最高速度 100km/h(水中9km/h)
  • 航続距離 500km
  • 30mm機関砲、7.62mm機関銃搭載
  • 乗組員 3人(車長、砲手、操縦手)
  • 輸送人員 10人

BTR-80をBTR-82Aのレベルまで改装したものとされる9

スボロフ勲章への言及

先述の「赤星」インタビュー記事において、ジトコ司令官は最後に、2018年12月に東部軍管区がスボロフ勲章の授与対象となったことに言及し、その地位に恥じない働きを軍管区の兵員および文民職員に期待すると発言した10

東部軍管区がスボロフ勲章を授与された理由として、2018年12月のズベズダテレビの記事では、極東地域における災害派遣、アデン湾における太平洋艦隊の活動、「ボストーク2018」演習が挙げられている11

「ボストーク2018」演習は30万人という空前規模で行われ、同演習には中国軍が旅団規模で参加したことでも話題となった12。また中ロ両国は2019年7月23日、日本海で戦略爆撃機による初の合同哨戒飛行を行い、軍事分野における両国関係の緊密化をアピールした13

評価

東部軍管区の能力向上へ向けた取り組みの一環として注目される。現在進められている東部軍管区での取り組みは、ロシアの脅威認識の変化に伴うものか、それとも、欧州方面での装備更新が一段落したために現在は東部軍管区の順番が回ってきているのか、2つの可能性が考えられる。

中ロ関係の緊密化が著しい中、今回言及されている装備は抑止というよりは実際に地上戦を戦うための装備であることから、その動向が注目される。

また、今次発言においてはクリル諸島(北方領土)における兵員宿舎2棟の建設が完了しつつあり、今後も同地の整備は継続される予定であるとの言及もあり14、北方領土における軍事インフラの整備状況にも注目される。

  1. “V etikh krayakh sluzhit’ vsegda pochetno,” Krasnaya zvezda, July 31, 2019, redstar.ru/v-etih-krayah-sluzhit-vsegda-pochyotno/.
  2. “Novaya boevaya mashina «Tornado-G» prishla na cmenu ustarevshemu «Gradu»,” TV Zvezda, September 19, 2013, tvzvezda.ru/news/forces/content/201309190917-ue3t.htm.
  3. “T-80BV,” Novyj oboronnyj zakaz strategii, February 10, 2018.
  4. Ministry of Defense of the Russian Federarion, “V 2019 godu tankisty Severnogo flota polnast’yu perevooruzhatsya na tanki T-80BVM,” February 1, 2019, function.mil.ru/news_page/country/more.htm?id=12215450@egNews.
  5. KB Mashinostroeniya, “Perenosnyj zenitnyj raketnyj kompleks «Verba»,” www.kbm.ru/ru/production/pzrk/795.html.
  6. “Antirakety idut na proryv: Sukhoputnye vojska poluchat cvoyu ‘chetyrekhsotku’,” Rossijskara gazeta, December 18, 2014, rg.ru/2014/12/18/raketa1-site.html.
  7. “Minoborony: Postuplenie ZRK «Buk-M3» v vojska ozhidaetsya v 2016 godu,” Vzglyad, December 28, 2013, vz.ru/news/2013/12/28/666431.html.
  8. NPO Mashinostroeniya, “Podvizhnyj beregovoj raketnyj kompleks «Bastion»,” npomash.ru/activities/ru/missile2.htm.
  9. “100 modernizirovannykh BTR-82AM postupyat v armiyu v 2018 godu,” TV zvezda, December 21, 2017, tvzvezda.ru/news/opk/content/201711211854-q1da.htm.
  10. “V etikh krayakh sluzhit’ vsegda pochetno,” Krasnaya zvezda.
  11. “Komanduyushchij vojskami VVO ppozdravil lichnyj sostav obedineniya s hagrazhdeniem voennogo okruga ordenom Suvorova,” TV zvezda, tvzvezda.ru/news/forces/content/201812242112-mil-ru-4p0xr.html.
  12. ボストーク研究所「「ボストーク2018」演習に見る中ロの軍事協力」2019年6月12日、vostokresearch.jp/?p=244。
  13. Aleksandr Peshkov, “MO RF: Yuzhnaya Koreya samoproizvol’no opoznavaniya PVO,” TV zvezda, July 23, 2019, tvzvezda.ru/news/vstrane_i_mire/content/2019723184-md1TH.html.
  14. “V etikh krayakh sluzhit’ vsegda pochetno,” Krasnaya zvezda.