ロシア軍戦闘編成の一例(2015年、ウクライナ)

基礎資料

ポトマック財団のフィリップ・カーバーがウクライナで入手したとする、ロシア軍によるドニエプル川以東への侵攻計画と思われる文書に記載されていた西部軍管区部隊の戦闘編成表等を抜粋し和訳したもの1

極秘
拠点 No. _ リスト
複写 No. _
西部軍管区司令部
「北」部隊集団の運用に関する解説メモ
サンクトペテルブルク

敵情分析結果

(略)

「北」部隊集団の戦闘編成

※ BTG(大隊戦術グループ)

軍事政治情勢、部隊集団の編成および状況、付与された任務の分析結果に基づき、次のように決した。

主力をドンスコエ、ボゴドゥホフ、キエフ方向に集中させる。

作戦遂行期間は14日間とする。

主な攻撃方向(文書内容よりボストーク研究所が推定)

D1の作戦開始までウクライナ軍、遊撃偵察グループ、非合法武装勢力部隊のHFおよびVHFバンド電波ネットワーク及び指揮統制無線、「インマルサット」および「イリジウム」衛星通信の携帯および移動システム、標準的なGSM-900、1800及び消費者向けSRNS「Navstar」の携帯通信基地ステーションに対し大規模な電波電子制圧を行う。これは非合法武装勢力、敵対勢力の各級部隊、全ての電子戦部隊の指揮統制を完全に破砕することを目的とする。

部隊の戦闘行動の結果を利用しつつ、第12予備コマンドはD2以降、7個BTG(第138自動車化歩兵旅団、第6戦車旅団、第79自動車化歩兵旅団/西部軍管区;第15自動車化歩兵旅団(2個BTG)、第32自動車化歩兵旅団/中部軍管区;第200自動車化歩兵旅団/北方艦隊)の襲撃行動(※Raid: 陣地占領を伴わない攻撃行動)によってドンスコエ、ボゴドゥホフ方向に主打撃を指向し、その他の打撃をドンスコエ、ドニエプロペトロフスク方向に指向する。

側方警戒部隊を進出させ、火砲陣地からの同時砲兵射撃によって敵に損害を与えることにより、主力の移動の遅延を防止する。

特殊部隊の支援を受けた前衛部隊の行動によって、主力の進出までにボルチヤ川の複数の橋梁を奪取し保持する。

進出は大規模な住民居住地域を迂回し、最大速度でもって行い、敵主力との戦闘行動を避けるものとする。

BTG偵察部隊は道路封鎖拠点を急襲し、主力の前進に対する武装抵抗を排除し、その後のBTGの進出を支援する。

D2の終わりまでにボルチヤ川を渡河し、BTGを移動経路上へ進出させ、当日の任務を完了させる。

D3の終わりまでに特殊部隊の支援を得てサマラ川を奪取し、アレクサンドロフカ、テルノフカ、ラズドルィの線に進出する。

特殊部隊および増強諸兵連合部隊(※BTGのこと)によって、クラマトルスク南西地域の第19ミサイル旅団ミサイル大隊陣地を発見してこれを奪取し、第448ミサイル旅団ミサイル大隊の広範な運用を可能にさせる。

D4には主打撃方向において特殊部隊がBTG襲撃部隊の支援を得てドニエプル・ドンバス運河の橋梁を奪取し、主力の障害通過と第1梯隊の直近の任務遂行を支援し、エリゾベトフカ、ペレシェピノ、クラスノパブロフカ、イズユムの線を確保する。

その他の方向においては、第79、第200自動車化歩兵旅団のBTGによってドニエプロペトロフスクを北および北東から封鎖し、敵の予備隊が戦闘行動地域に進出するのを阻止する。

主力のドニエプル・ドンバス運河通過が遅延する場合(敵による橋梁の占拠(破壊))、メチェビィリボおよびペレシェピノ地域における第45工兵旅団架橋中隊による渡河橋梁の設置を検討する。

ロゾバヤ、ボゴドゥホフ方向での主力によるじ後の攻撃を進展させつつ、特殊部隊によりボルスクラ川の橋梁および主要渡河適地を奪取し、D6の終わりまでに安全地帯No.1(ソロチェフ、ポロフカ、アフティルカ、コテリバ、ポルタバ、コベリャキ、スベトロゴルスコエ、ノボモスコフスク、クラスノグラド、コロマク、ボゴドゥホフ)を設置し、第12予備コマンド第6自動車化歩兵「コサック」連隊の支援を得た第15自動車化歩兵旅団(2個BTG)により、主要鉄道ジャンクションおよび自動車経路上でハリコフを封鎖する。

第15自動車化歩兵旅団および特殊部隊によりチュグエフ空港を奪取し、航空隊の運用を可能にさせる。

「北」部隊集団の防空部隊(第49対空ミサイル旅団対空ミサイル大隊、第53対空ミサイル旅団2個大隊、第1117対空ミサイル連隊対空ミサイル中隊)およびBTGは常に敵航空部隊の偵察を行い、空中機動経路を統制下におく。ハリコフ州およびドニエプロペトロフスク州地区を安全地帯として宣言する。

安全地帯を設置し、交通網への統制を確立する。

D7の朝までに、空挺部隊(VDV)偵察部隊の行動により、ポポフカ、ボゴドゥホフ、ドロチェフ、プロホドィ、ステレリチエ地区および国境のウクライナ国境警備隊及び税関を無力化する。

D7の終わりまでに戦闘行動地域を隔離し、ハリコフ州およびドニエプロペトロフスク州を統制下におき、敵の補給システムを阻害し、第2梯隊部隊による攻撃のための出発地域を確保し、「北」集団の直近の任務を完了させる。

D9以降、第2梯隊(8個BTG:第104、234空中攻撃連隊/第76空中攻撃師団;第51パラシュート連隊、第137パラシュート連隊/第106空挺師団;第11空中攻撃旅団、第31空中攻撃旅団(2個BTG)、第56空中攻撃旅団)の戦闘を遂行する。

主打撃方向をボゴドゥホフ、ルブヌイ、キエフとし、その他の打撃方向をコテリバ、クレメンチュクとする。

(状況が整った場合)戦術空中デサント(※ヘリボーン)降着および特殊部隊の行動によりスラ川の河川障害における橋梁を奪取、保持してBTGの移動速度向上に寄与させるとともに、D10の終わりまでにロムヌイ、ルブヌイ、ゴロシノの線を確保して北からクレメンチュクを封鎖し、敵部隊の増援を阻止する。

続いて、ルブヌイ、キエフ方向での攻撃を進展させつつ、ルブヌイ、ゾロトノシャ方向の一部部隊により、安全地帯No. 2(カリタ、レベデフカ、ボルトニチ、レプリャボ、チャパエフカ、リポボエ、ブラソフカ、(重要)スベトロゴルスコエ、(重要)コベリャキ、オルジツァ、グレベンカ、ズグロフカ)を設置する。

D15の終わりまでにウクライナ東部における敵の主要武力省庁部隊の包囲を完成させ、同国の左岸地域(ルガンスク州、ドネツク州、ハリコフ州、ドニエプロペトロフスク州、スムスク州、ポルタバ州、チェルニゴフ州、キエフ州の一部、チェルカスイ州)を統制下におく。

次に示す9の(重要な)作戦任務を連続的に遂行することによって目標を達成する。

1. 動的な部隊展開および編成

2. 秘匿された作戦指揮統制、無人機および電子戦装備の運用をともなう集中同時打撃

3. 敵の死活的に重要な目標の破壊

4. 襲撃行動の実施

5. 敵部隊の包囲、殲滅、封鎖

6. 戦術空中デサント(※ヘリボーン)の降着、防御縦深における敵目標の封鎖および撃滅

7. 交通網(自動車道、鉄道ジャンクション、空港)に対する統制の確立

8. 安全地帯の設置およびウクライナ東岸地域に対する統制の確立

9. 情報活動の遂行

(略)

作戦部隊の任務

(略)

相互支援

(略)

作戦、心理、技術、後方、医療支援

(略)

指揮統制

(略)

  1. ドラフト段階のものとみられる。Phillip Karber, “Karber RUS-UKR War Lessons Learned,” The Potomac Foundation, Conference Paper, July 2015, uploaded to ResearchGate by author on July 14, 2017, www.researchgate.net/publication/316122469_Karber_RUS-UKR_War_Lessons_Learned; 文書のダウンロード、“Ssylka dlya skachivaniya tekstovoj versii POYASNITEL’NOJ ZAPISKI k Planu rossijskogo napadeniya na Ukrainu,” Mirotvorets’, June 14, 2015, psb4ukr.org/246336-ssylka-dlya-skachivaniya-tekstovoj-versii-poyasnitelnoj-zapiski-k-planu-rossijskogo-napadeniya-na-ukrainu/.

2019年7月6日